テポドン発射準備 北朝鮮の真意は?
2006年06月19日23時42分

 撃つのか、撃たないのか――。北朝鮮の長距離弾道ミサイル「テポドン2」が発射間近との見方が強まり、関係各国に緊張が高まっている。日米両政府は、国連安保理の開催や経済制裁を検討する。発射すれば、北朝鮮に融和的な韓国や中国も対応をとらざるを得なくなる。国際社会の自制を促す声を受けながら、北朝鮮は米国を直接交渉に引き込むためのぎりぎりの神経戦を続けている。

    ◇
 
 北朝鮮が打ち上げ準備を進めているテポドン2について、防衛庁など日本政府関係者は、ミサイル本体の組み立てはほぼ完了したとみている。今後、液体燃料の注入が終われば打ち上げ準備が整うことになり、自衛隊は在日米軍と連携して情報収集を進めている。

 ロイター通信は18日、複数の米当局者の話として、北朝鮮が発射準備を進める「テポドン2」について、燃料注入が完了したと見られる、と報じたが、日米政府として正式確認はしていない。

 関係者によると、北朝鮮はミサイルの弾頭、ブースター(推進装置)などの部品を発射台近くの格納庫からトレーラーに積んで運び出し、発射台で下から上へと積み上げたという。今のところ2段あるブースターの組み立ては確認された。ただ、弾頭部分が搭載済みかどうかははっきりしない、という見方もある。

 液体燃料の注入は、移動式燃料タンクから金属製パイプを通じ、第1段と第2段のブースターに分けてそれぞれ行う。燃料注入は通常、爆発が起きた際の誘爆などを防ぐため複数回に分けられ、注入にかかる時間は十数時間とされる。

 注入された燃料は、時間がたつと酸化など変質が進んで使用できなくなる。期限は最短で3日とされるが、旧ソ連の技術が移転していれば数カ月もつともいわれる。また、時間とともにミサイル本体も腐食するため、いったん注入されれば打ち上げに踏み切る可能性が強いと指摘される。

    ◇

 「危機の演出で米国を揺さぶり、直接交渉に誘い出すことに加え、軍事技術の進展を示して生活苦にあえぐ国民の目を国威発揚に向ける」。テポドン2発射の動きを止めない北朝鮮の狙いを、韓国の外交筋は19日こう分析してみせた。

 北朝鮮にとって当面の最大の課題は米国による金融制裁問題だ。マカオの口座を始め、金正日(キム・ジョンイル)総書記を支える「血」ともいえるカネの流れが細れば体制の揺らぎに直結する。だが、核開発問題をめぐる6者協議を「人質」にとってまで制裁解除を迫る北朝鮮に対し、米国は「6者に戻れ」の一点張りだ。

 今回のミサイル準備には、そうした閉塞(へいそく)感を打開したいとの思惑が色濃くにじむ。得意の瀬戸際戦術を一層危険な領域に進めた形だ。

 「米国の敵視政策のせいで自衛のための軍事力を拡大せざるをえない」(北朝鮮外務省)。北朝鮮にすれば、ミサイル(ロケット)開発も一主権国家としての正当な権利。金融制裁解除を求める北朝鮮は、発射に踏み切った後、改めて発射凍結を米国との交渉材料に持ち出す可能性がある。

 さらには、発射で国内向けにも軍事能力を誇示でき、国民の団結を訴えて体制固めに利用できる。そんな計算も働いているに違いない。

6/19付 朝日新聞