北朝鮮制裁案 官邸強気、中ロ牽制、欠席・棄権狙う
2006年07月08日22時38分

 北朝鮮のミサイル発射問題で、中ロが反対する制裁決議案提出を日本が主導したのは、首相官邸の強い意向からだ。「北朝鮮の仲間だから、反対するのか」(政府高官)とあぶり出す戦術は、郵政民営化法案の反対組を「抵抗勢力」とみなした手法に似る。国連安保理の採決で中ロが拒否権を行使しないよう牽制(けんせい)し、欠席か棄権に追い込みたい考えだ。

 「普段のバランス感覚と気配りにあふれた日本の代表団とは、とても思えない行動だ」

 国連本部の廊下やラウンジでは、しゃにむに決議採択へ突き進む日本の姿に驚きの声が繰り返し交わされた。日本の国連外交筋は「こちらの事情がどうあれ、今回は官邸の判断だ」と明かした。

 ミサイル発射翌日の6日。小泉首相は記者団に言った。「中国だって、ロシアだって、北朝鮮がどんどんミサイルを発射してもいいですよ、とは言えないでしょう」

 安倍官房長官の強硬姿勢も際立つ。7日の会合で「間違っても北朝鮮の挑戦的な行為に、何かシンパシー(共感)をもっているという誤解を受けることがあってはならない」と言い切った。

 98年に北朝鮮がテポドン1を発射しても、安保理は報道向け声明を出しただけ。北朝鮮はミサイルや核の開発を続けた。麻生外相は8日、大阪市での講演で語った。「相手は増長した。過去から学ばずに何を学ぶのか」

 小泉政権の強硬姿勢は国内世論にらみの面もある。9月の自民党総裁選を控え、自民党内からは「この局面では北朝鮮や中国に毅然(きぜん)とした態度を示すことが大事」(中堅議員)という声がある。

 もちろん、それなりの勝算もあるようだ。北朝鮮に気をつかう中ロ両国だが、国際社会の警告を無視した国を擁護し続けるのは難しいはず――。そんな計算だ。

 中国は北朝鮮の核問題をめぐる6者協議の議長国。ロシアは自国で初開催の主要国首脳会議(G8サミット)を1週間後に控える。「中国も何とかしなければ、と思い議長声明案を出してきた。ロシアはG8諸国の中での突出を避けるはずだ」と政府高官は読む。

 ロシアを説得できれば中国は単独で拒否権を行使しない、という見方も政府内にある。麻生外相は7日夜、ロシアのラブロフ外相に電話で「ミサイルはナホトカ沖合に着弾している。安全保障上の重大な問題だ」と呼びかけた。G8メンバーの独、伊両国の外相に協力を求めたのも、ロシア揺さぶりが狙いだ。

 とはいえ、中ロがそろって賛成に転じるとは考えにくい。どちらかが拒否権を使えば、決議案は廃案だ。そこで政府が狙うのは、両国に欠席か棄権してもらい、決議案を通すこと。麻生外相は8日の講演で「いろんな国に『欠席してくれ』と(言っている)」と明かし、戦術を認めた。